近年、SNSや動画コンテンツを見ていると、言語的なコミュニケーションが対立構造を生むという意見をよく目にします。一方で、世界情勢の緊張を背景に、一部の声の大きい人々が対立を煽っているだけではないか、とも感じます。
歴史を振り返ると、戦争や社会的混乱の前夜にメディアが過激な言説を助長し、世論を誘導した事例が数多くあります。特に、冷静な情報源としての書籍や図書館と、拡散力が強く感情を刺激しやすいSNS・動画の違いを意識することは、情報に振り回されないために重要です。
この記事では、日本と海外の歴史的なメディアの事例を紹介しつつ、冷静な情報発信の必要性について考察します。
1. 戦前日本におけるメディアと世論操作
1-1. 満州事変と報道の変化
1931年の満州事変当初、日本の主要新聞社の中には関東軍の軍事行動に批判的な立場を取るメディアもありました。しかし、世論の圧力や政府の介入を受けて、多くのメディアが軍部支持に転じました。
例えば、「東京朝日新聞」は当初関東軍に批判的でしたが、激しい不買運動に遭い、1か月後には支持に転じました。このように、世論とメディアが相互に影響を及ぼし合いながら、対立構造が強まっていったのです。
1-2. 五・一五事件とテロの正当化
1932年、犬養毅首相が暗殺された五・一五事件では、新聞各紙が犯人に同情的な論調を展開し、国民の間にも「彼らは正義のために行動した」という声が広がりました。この結果、世論は減刑を求める方向に傾き、犯人たちは比較的軽い刑で済むことになりました。
メディアが「英雄物語」を作ることで、暴力行為が正当化される流れは、現代にも通じるものがあります。SNS上で過激な言動が拡散され、支持を集める現象と共通点を見出せるでしょう。
1-3. 戦時下のプロパガンダ
太平洋戦争が激化すると、メディアは戦争を美化し、国民を戦意高揚へと導きました。例えば、政府の監修のもと発行された「写真週報」は、戦争の「正義」を強調し、日本軍の活躍を誇張して伝えるものでした。
当時の新聞・ラジオは国民がアクセスしやすいメディアであり、現在のSNSのような役割を果たしていました。現代においても、拡散力のあるメディアが一方的な情報を流すことの影響力を理解する必要があります。
2. 海外におけるメディアの世論操作事例
2-1. ナチス・ドイツと「人民の敵」
1930年代のドイツでは、ヒトラー政権が新聞・ラジオを活用し、「人民の敵」としてユダヤ人や共産主義者を攻撃しました。ナチスの宣伝相ゲッベルスは、シンプルで感情に訴えるスローガンを使い、大衆の怒りを操作しました。
特にラジオは、「ホットなメディア」としてナチスのプロパガンダを広めるのに有効でした。現代のSNSと同様に、短いメッセージが強い影響力を持つことが分かります。
2-2. ルワンダ虐殺とラジオ放送
1994年のルワンダ虐殺では、ラジオ局「RTLM(自由ルワンダ放送)」がフツ族に対しツチ族の殺害を扇動しました。この放送がなければ、約100日間で80万人もの虐殺は起こらなかったかもしれません。
これは、メディアが対立を煽ることで、大衆が暴力へと駆り立てられる典型的な例です。現在のSNS上で広がるデマやヘイトスピーチと類似した側面があるため、情報の取り扱いには注意が必要です。
2-3. アメリカの「イラク大量破壊兵器」報道
2003年のイラク戦争開戦前、アメリカの主要メディアは「イラクが大量破壊兵器を保有している」という政府の主張を積極的に報じました。しかし、戦後になっても大量破壊兵器は発見されず、多くの報道が誤りであったことが明らかになりました。
SNSが普及した現在でも、誤情報が拡散されることは珍しくありません。当時のアメリカの報道が果たした役割を振り返ることで、現代におけるメディアリテラシーの重要性が理解できます。
3. 冷静な情報発信のために——「ホット」と「コールド」を意識する
マクルーハンのメディア論では、メディアは「ホット(感情を刺激しやすい)」と「コールド(冷静に考えやすい)」に分類されます。
• ホットなメディア(SNS、動画、ラジオ)
短時間で強い影響を与え、感情に訴える。拡散力が強く、誤情報が広まりやすい。
• コールドなメディア(本、図書館、新聞の分析記事)
時間をかけて情報を整理し、論理的に思考できる。即時性は低いが、深い理解が得られる。
感情を煽る情報に触れたときは、一度立ち止まって本や図書館の資料など、より冷静な情報源に目を向けることが大切です。
4. まとめ
歴史を振り返ると、戦争や社会不安の前には、メディアが対立を煽るような情報を発信し、世論を誘導するケースが多く見られます。日本の戦前報道、ナチスのプロパガンダ、ルワンダ虐殺のラジオ扇動など、過去の事例は現代にも通じる教訓を含んでいます。
特に、SNSや動画といった「ホットなメディア」は感情を刺激しやすく、情報が偏るリスクが高いため、冷静な情報源(本、図書館、学術論文など)とのバランスを取ることが重要です。
情報に振り回されず、歴史に学びながら、冷静な視点を持ち続けることが、混乱の時代を生き抜くための鍵となるでしょう。
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