バルコニーの細い螺旋階段を登ると、視界が一気に開けた。昼下がりのアテネ、古びた建物の屋根が波打つ向こうに、アクロポリスが堂々とそびえている。透明なガラステーブルに手を置き、黄色い椅子に腰を下ろす。風が少し強い。

この街を歩く前、アテネの治安について少しばかりの警戒心を抱いていた。経済危機の影響が長く尾を引き、仕事を失った人々が増え、治安も悪化したと聞いていたからだ。しかし、昼間の通りには、そんな空気はほとんど感じられなかった。特に子供たちは、そんな大人の事情とは無縁のように、道端で元気に駆け回っている。

公園の一角で、古びたサッカーボールを蹴る少年たちがいた。ボールは擦り切れ、もはや白黒の模様を留めていない。それでも彼らは笑いながら、時に小競り合いをしながら、夢中で遊んでいた。その様子を見ていると、ふと、昔どこかの国で見た光景が頭をよぎる。貧しくても、遊び場がなくても、子供は遊ぶ。ボール一つあれば、世界中どこでもゲームは始まる。
しかし、その明るさの裏には、確かに問題も横たわっているのだろう。ギリシャでは、経済的困難を背景に、多くの家庭が十分な福祉を受けられずにいる。子供の貧困率も決して低くはない。それでも、彼らは笑う。目の前のゲームに熱中し、道行く観光客にはしゃぎながら手を振る。
屋上のテラスから街を見下ろす。屋根の上に植えられたハーブが風に揺れている。アクロポリスの石畳に夕陽が差し始め、遠くからカフェのざわめきが聞こえてくる。アテネの街は決して裕福ではない。けれど、そこには人々の日常があり、子供たちの声が響いていた。
何かを失っても、街は生き続ける。古代の遺跡を抱えながら、そこに住む人々の生活が続いている。そのことが、この屋上の風景を、ただの観光名所ではなく、ひとつの街の姿として感じさせてくれた。
ふと、温かいトルココーヒーが飲みたくなった。螺旋階段を下り、キッチンへ向かう。

コメント