目覚ましの音に叩き起こされる。まだ夜の気配が残る窓の外を一瞥し、昨夜の自分を恨んだ。なぜ、早起きしようなどと思ったのか。けれど、すぐに思い出す。ネモフィラだ。青一色の花畑をこの目で見るために、少しばかりの努力は必要だろう。
キッチンに立ち、ホットサンドを焼く。バターの香ばしい匂いが漂い、パンの表面に美しい焼き色がつくのを見届けながら、今日はどんな景色に出会えるのだろうと想像する。

外に出ると、空気がまだ冷たい。バス停にはすでに人の列ができていた。見渡せば、手にはレジャーシートやお弁当を持った家族連れ、静かに並ぶカップル、そして、どこかで同じように「なぜ早起きしたのか」と思っていそうな顔ぶれがそろっていた。バスが来る。思った以上に混雑している。休日の朝、郊外へ向かうバスがこんなにもぎゅうぎゅうになるとは思わなかったが、それでも揺られていくうちに、次第に期待が膨らんでくる。

ようやく舞洲に到着し、足を踏み入れた瞬間、その景色に息をのんだ。視界いっぱいに広がるネモフィラの青。まるで空が地面に降りてきたような、海と空が地上で溶け合ったような光景だった。その隙間を縫うように、鮮やかなチューリップがぽつぽつと色を添えている。
もともとこの「ネモフィラ祭り」は、舞洲の土地活用の一環として始まったらしい。かつてのゴミ処分場跡地を美しい花畑に変え、訪れる人々に新しい憩いの場を提供する。廃棄物の山が、今や多くの人を魅了する観光地へと生まれ変わった。そう考えると、足元の土の奥深くに眠る過去と、今こうして風にそよぐ花々の対比が、なんとも不思議に思えてくる。

家族連れがレジャーシートを広げ、子どもたちが駆け回る。カップルは寄り添いながら、そっとシャッターを切る。その景色の端に、自分もまた立っている。しばし言葉を忘れ、風の音に耳を傾けた。
帰りのバスもやはり混雑していたが、不思議と苦にならなかった。手には、朝作ったホットサンドの最後の一切れ。すっかり冷めてしまったけれど、どこかにまだバターの香りが残っている気がした。
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