ブロックチェーンとヘルスケア。あまり馴染みがないように感じる方も多いと思います。
しかしながら、データ管理という視点から見ると、日本のヘルスケア分野が抱えるさまざまな問題を解決しうるポテンシャルを秘めた有用な技術であり、多分野での活用事例が増えるに従って近年その注目が高まっています。
Examining the Potential of Blockchain Technology to Meet the Needs of 21st-Century Japanese Health Care: Viewpoint on Use Cases and Policy.
J Med Internet Res. 2020 Jan; 22(1): e13649.
10秒でチェック!記事のポイント
・国民医療費のひっ迫や高齢化などに伴い、日本のヘルスケアシステムに変革が求められつつある。
・ブロックチェーンの活用により、健康記録の電子化、IoT在宅ケア整備といった解決策につながる可能性がある。
・中央集権的でなく、国民に必要な、目的に沿ったローカルなシステムこそが社会へ与えるインパクトが大きいと考察している。
この論文では、ブロックチェーン技術がヘルスケアのどの場面で活用できるか、また具体的にどのような課題に対する解決策があるかについて、著者らのアイデアを提示してくれています。
ブロックチェーンというホットな技術を通して、幸せな未来づくりに関われるかも知れない…と思わせてくれる論文です。
それでは内容をチェックしていきましょう!
ブロックチェーンとは??
ブロックチェーンについて簡単におさらいしておくと、今から10年以上前に「サトシ・ナカモト」を名乗る作者が発表した技術であり、自律的なデータ管理が可能な技術です。その特徴として、
- データを使用者同士で管理および記録する
- データ改ざんが難しい
- 一部で不正や破損などのエラーが起きても全体に影響せず稼働し続ける
といった点があります。したがって、セキュリティが高く、堅実なマネジメントが可能で、透明性が高いデータ管理技術と捉えることができます。
ご存知のとおり、すでにブロックチェーンが普及しつついる分野もありますね。サトシ・ナカモト氏が同じく言及したビットコインなどの仮想通貨市場や、金融(「フィンテック」という単語は最近よく見かけますね)、また物流領域でも個人情報の扱いに用いられつつあるようです。
うん、僕もビットコインが流行っていたときに少し調べてみた覚えがあるよ!でも、ヘルスケア分野で何に活用できるのかな??
日本のヘルスケア分野が抱える課題とは??
それでは本論に入ります。日本国内での公的医療システムについては、これまで他国から高く評価されてきていたものがあります。
それは、1961年から施行された公的医療保険制度です。
国民全員が何らかの医療保険に加入することを定めたこのシステムは(国民皆保険制度)、情報へのアクセス、質、コストの面で称賛されていました。
この取り組みは、国連が提唱する持続可能な開発目標(SGDs)のひとつであるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、「すべての人々の健康と福祉を」の例としても認識されています。
しかしながら近年、未曾有の超高齢化社会に突入した日本において、以下のような課題が挙がってきました。
- 国民医療費への支出拡大(2015年では42.3兆円、GDPの11.2%とOECD加盟35か国中3位)
- ヘルスケアサービスの需要増加(患者の増加およびサービスの過剰な利用)
- 高齢者医療、長期ケアの必要性増大(健康年齢と寿命とのギャップ)
- 医療従事者の不足(上記に伴う労働力の需要増大)
- 地方と都市部での医療アクセス格差(例として、心筋梗塞の死亡率に4~5倍の差)
これら課題を背景に、今やUHC達成に向けたヘルスケアシステムの早急な改革が求められているのです。
このような流れの中で、情報インフラ整備の遅れが問題のひとつとして浮かび上がってきました。例えば電子カルテの普及率は論文執筆時で34.4%と低いのが現状です。
スペインなどでは国として医療カルテの活用を進めていますね。
日本ではヘルスケアでのデジタル化の動きはまだまだ小さいように思います。
医療面でのコスト減や、サービス需要増加に伴う情報へのアクセスの簡易化が求められています。
このニーズを満たす可能性こそが、ブロックチェーンという新しい技術であると著者らは提案しています。
ブロックチェーンがどのような場面でどんな解決策を提案できるか??
何となくヘルスケア分野でブロックチェーンが活用できそうな気がしてきた!じゃあ、具体的にどんなことができるのかな??
ブロックチェーンが活用できる場面とその解決策について、著者らは5つの具体的な例を提示しています。
国民医療費:ブロックチェーンによる電子健康記録(EHR)の整備
高齢化社会と介護ケア:IoT在宅ケアシステムおよびロボット化
労働者不足:ブロックチェーンによる資格情報の管理と共有
患者の身元証明:マイナンバーによるデジタルアイデンティティ
創薬臨床研究:臨床研究データのブロックチェーン管理
こう細分化されると、意外と活用できそうな場面がイメージしやすくなりますね。各々の詳細についても論文内で触れられています。
データ管理についてはフィンテックなどと同様、直接的なコストの削減が考えられそうです。
他方で製薬企業や医療系サプライチェーンでは、臨床試験の情報管理、医薬品の出所特定、規制遵守、偽造医薬品の防止など、データ信頼度やサービス品質の向上につながると期待されています。
実際に論文内では、サノフィやノバルティス、IBMやMediLeuderといった企業の例が紹介されています。
すでに企業レベル、個人レベルで利用が始められていることも重要な動向だと著者らは述べています。このような例について今後もチェックしたいですね
著者らはこれら解決策を通じて、EHRによる医療費の支出抑制、医療従事者および国による個人情報の管理方式の一元化、Internat of Medical Things(IoMT)による在宅ケアや遠隔医療の実現につながると結論づけています。
さいごに
著者らの意見として印象的だったのが、国全体として中央集権的なひとつのシステムを構築するのではなく、国民が必要とする目的に沿った「分散した」ブロックチェーンの発展が、より早急なヘルスケアの課題解決につながると述べています。
確かにブロックチェーンの特徴からして、ひとつの機関が一括して管理するのは、発展を妨げそうです。
個人であっても、社会を変えて貢献したいという意思があれば取り組めるということであれば、何だか希望がもてますね!
他方で、金融などにおける個人情報の取り扱いを参考として、ヘルスケア分野においては一層厳重に管理すべきであり、その部分が企業や政府などがしっかり管理すべきポイントだとしています。
大切な個人情報が適正に管理されているかといった、患者さんの気持ちに寄り添える部分については、ブロックチェーンの提供者のみならず医療従事者が注意深くチェックする必要がありそうですね。
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