懐の深さ

旅の雫

ドイツでフォルクスワーゲンを借りて、アウトバーンに滑り込んだときの不思議な高揚感は忘れられない。

‘人生で一度くらい外車でかっ飛ばしてみたい’などという血気盛んな夢など微塵も持っていない、極めて保守的な私達である。

そうではなく極めてナチュラルに、あくまで日常動作の一環として、時速200km以上を当たり前に出しながら皆が平気な顔で運行している。

海外でレンタカーに乗ること自体が初めてだった私達は、それ自体の冒険感も相俟って、目を輝かせながら周りの光景に対しわーわーと歓声を上げていた。

‘ユーラシア”大陸”って言うだけあって、やっぱり島国とはスケール感がちがうなぁ!’

‘関係あるんかいな!’というこちらの返答も意に介さず、ヒロシは広大な野原が続く景色に感嘆しきりだ。

ふとドイツ語で書かれた標識の向こうに目をやると、雪を被った岩肌を見せつける堂々とした山が聳え立っている。

名前も知らないその山は、遥々日本からやってきた私達にヨーロッパアルプスの雄大さを強く印象づけた。

近くに車を停めて休憩している間、私はふとレンタカー屋での出来事を思い出していた。

道の路肩いっぱいに車が停まっているのだが、その僅かな隙間へ押し込むようにして、前後のバンパーをぶつけながら車達が駐められていくのだ。

私達は呆気にとられながら、アウディやBMWなんかが、音を立てながらギシギシと揺れている様子を見つめていた。

その記憶と目の前の山々に、大らかというかなんというか、やはり大陸の懐の深さには敵わないなぁ、としみじみ感じさせられたのである。

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