ゴシック地区の細い路地を抜け、たどり着いたのは「bubó」。書物で偶然見かけたその名が、ずっと頭の片隅にあった。店の前に立つと、モダンなガラス張りのファサードの向こうに、宝石のようなケーキが整然と並んでいるのが見える。

扉を押し開けると、冷たい夜風が背後に消え、室内には甘やかなカカオの香りが満ちていた。カウンターの向こうには、気だるげな雰囲気の女性が二人。だが、彼女たちがケーキの説明を始めると、表情がふっとほころび、言葉の端々に商品への想いを滲ませた。
「このチョコレートのケーキは、甘さ控えめでカカオの香りが豊かです。そして、こちらはシトラスのフレッシュさが際立ちます。」
二つのケーキを選び、手にした鮮やかな赤い箱を眺めながら、夜の石畳を踏みしめる。

ホテルの部屋に戻り、箱を開けると、そこには闇と光の対比が鮮烈な二つのスイーツ。漆黒のグラサージュに包まれたケーキの上には、小さなマカロンが鎮座している。その隣には、緑がかった黄色いコーティングのケーキ。繊細な白いチョコレートの飾りが添えられ、かすかに柑橘の香りが立ち上る。

ひと口。しっとりとしたチョコレートが舌の上で溶ける。甘すぎず、しかし濃厚な味わいが広がる。続いてシトラスのケーキを頬張ると、途端に瑞々しい酸味が口の中を駆け抜けた。
バルセロナの夜はまだ深い。カタルーニャ広場までの散歩を思い浮かべながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。旅の記憶は、こうした小さな味わいとともに、いつまでも心に残るのだろう。
bubóはバルセロナを代表するパティスリーの一つで、エル・ボルン地区に本店を構える。ミシュラン星付きのシェフが手がけるケーキは、見た目の美しさと繊細な味わいで知られ、地元の人々のみならず観光客にも愛されている。特に「Xabina(シャビーナ)」というチョコレートケーキは有名で、世界的なスイーツコンテストでも高評価を得た。
バルセロナを訪れたなら、夜の散策の途中にふらりと立ち寄るのも悪くない。甘く、美しい記憶を持ち帰るために。
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