居心地

旅の雫

憧れの島への出発に向けてYoutubeで情報収集をしていると、やたらと美しい地中海料理を紹介するカップルを発見した。

“サントリーニ島でブランチ、なんて素敵じゃない?”とリサが言う。

きらきらとした青空の下、テラス席に腰掛けている2人。次々と映し出される白身魚やイカは、大きな皿の上で宝石のように輝いて見えた。

“ええなぁ。そしたら島に着いてはじめてのお昼はここで決まりやね!”

そして、舞台はサントリーニ島へと移る。 念願叶って、’Pelican Kipos’で遅めの朝食を摂ることとなったのである。

せっかく下調べして、遠路はるばる辿り着いた憧れの島での食事。私達はひそかにこのレストランを、”あたかも常連であるかのように普段使いできるお店”にしようと決意していた。

サントリーニ(ティラ)空港に着いた観光客達の多くは路線バスに乗り、島の中心部にあるフィラへと向かう。

フィラのバス停は島内各地へ向かうバス路線が集まるターミナルであり、サンセットビューで有名なイアや、火山岩からなる黒い砂浜が特徴的なカマリビーチなど、有名スポットに行く人々で賑わっている。

ハイシーズンである夏ほどではないものの、私達が訪れた3月上旬においても、おおむね不便なく各所へ赴くことができた。

そんなフィラのバスターミナルから、北に歩いて5分ほどに位置するのが、この’Pelican Kipos’。どうやら’Pelican Hotel’併設のレストランらしい。調べてみると、’Kipos’とはギリシャ語で’公園’のことだそうだ。辺りを見回すと、小鳥たちが自由に出入りしていて、正に庭園のようだ。

入口を抜けるとすぐに、草木の生い茂る庭が出迎えてくれた。目の前にはちょこんとメニューが立っている。緑の中を進む小径を案内してもらう。

あの日動画で観たテラスだ。

壁も何もない外の空間だと思っていたが、実際にはガラス張りの半室内であり、空調が効いてて居心地が良い。

喉が渇いていたので、とりあえず水を注文する。ほどなくして運ばれてきたスパークリングウォーターのそばには、半月の形に切られたレモンが入ったグラス。庭園に生い茂る草木と相俟って、レモングラスのような爽やかな香りが漂ってくる。

それにしても、改めて見回すと結構広い。絶え間なく人々が出入りしているが、ごちゃごちゃしておらずゆったりとした時間が流れている。

少し意外だったことに、ここではアジア系の来客者が多かった。小鳥の囀りに混じって、「アンニョン」と挨拶をかけるウェイターの声が聞こえる。

にわかにお店の外が騒がしくなってきた。どうやらデモ行進の行列がやってきたようだ。日本ではあまり出くわさないシチュエーションに、ここが海外だということを強く思い出させられた。

「ホテルのレストランみたいだし、地元の行きつけって雰囲気は薄いわね。」と問いかけてくるリサの表情は、しかしながらどこか嬉しそうだ。

旅行客という立場の私達にとっては、少し非日常の雰囲気が漂う’Pelican Kipos’こそが、正に旅情を感じられる居心地の良い場所となったのである。

地中海食は健康に良いとされており、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています!エーゲ海の魚介類や野菜をふんだんに使ったギリシャ料理、ぜひ食べてみてくださいね。

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