御在所ロープウェイの夕景──澄んだ空気とホットココア

遊休知美

ロープウェイのキャビンが静かに揺れる。眼下には山肌に張りつくような木々の影が長く伸び、遠く伊勢湾のほうまで淡く霞んでいる。11月の御在所岳は、紅葉シーズンが終わりかけていることもあってか、訪れる人もまばらだった。その分、山全体がひっそりとしていて、澄んだ空気が冷たく肌を刺す。こういう季節の端境期には、観光地の賑わいが引いて、場所本来の静けさが戻る。ロープウェイの窓から見える景色には、どこか寂しげな風情が漂っていた。

キャビンの中には、オレンジ色のシートがひとつ。さっきまで乗っていた観光客が降りてしまい、今は自分ひとりだけ。上を見上げると、反対側から赤いゴンドラがゆっくりとすれ違う。その中には数人の登山客らしき姿が見えた。皆、厚手のダウンジャケットを着込み、肩を寄せ合うように座っている。寒さを覚悟で山に登る人たちには、何かしらの目的があるのだろう。その姿を眺めながら、自分はただ、ロープウェイに乗るだけの軽い旅をしているのだということを思い知る。

山頂に到着すると、思わず息をのんだ。想像以上の寒さだった。山の上と下とでは、気温がこんなにも違うものか。頬を刺す冷たい風に身をすくめながら、足早に展望台へ向かう。

展望台からの眺めは圧巻だった。地平線に沈みゆく太陽が、空を真っ赤に染めている。雲がほんのりと紫がかり、オレンジから深い藍色へと移ろうグラデーションが美しい。遠くに広がる街並みには、ぽつぽつと明かりが灯り始めていた。夕焼けの名所と呼ばれる場所はいくつもあるが、こんなふうに冷たい風を感じながら眺める夕焼けも悪くない。

ふと、近くのベンチから賑やかな笑い声が聞こえてきた。若い女性たちが、湯気を立てるうどんをすすりながら談笑している。寒さに震えながら、アツアツの麺を頬張る彼女たちは、実に幸せそうだった。羨ましいと思った。

何か温かいものが欲しくなり、やおら売店へ向かった。棚には、御在所岳のイラストが描かれた手ぬぐいや、登山用の防寒グッズ、そして「湯の花せんべい」が並んでいた。どれも良さそうだったが、今はお土産よりも先に体を温めたい。ホットココアを買い、両手でカップを包み込む。口をつけると、甘さがじんわりと広がり、冷えた体に沁みた。

ココアを飲みながら、再び外に出る。日が沈んだ後の山は、よりいっそう静かになり、気温もさらに下がった。帰りのロープウェイに乗ると、キャビンの窓から四日市の工場夜景が見えた。街の灯りが遠くに瞬き、下界の日常と、今自分がいる場所との距離を改めて感じる。

ぽつんと呟いた。

「寒かったけど、また来たくなるな」

次はもっと厚着をして来よう。そして、もしできることなら、誰かと一緒に、あのうどんの輪の中に入ってみたい。そう思いながら、ゆっくりと山を降りていった。

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