SMAs(Shared Medical Appointments)、直訳すると「共有された医療の予約」。
検索しても英語ばかり出てくるので笑、日本ではまだまだ認知されていないことかと存じます。
我が国でも、患者さんの治療への参加意識がますます向上しつつある昨今。このような仕組みが整備されば、より患者さんによる主体的な治療を進める手助けになるのではないかと思います。
ぜひ「SMAsとは何か?」を知るための取っ掛かりとして、本記事を役立てていただけると嬉しいです!
10秒でチェック!記事のポイント
・SMAsは患者さんたちが包括的なケアを受けるためのグループであり、健康状態や治療の管理に活用されている。
・米国では10年以上前から、糖尿病や多発性硬化症、集中治療室(ICU)後のケアなど様々な状況で取り入れられている。
・現在も方法についての改良が重ねられており、取り入れるにあたってまだまだ工夫する余地がある!
そもそも、SMAsって何?
SMAsとは「患者さんたちが包括的なケアを受けるために継続的に集まるグループ」のことです。またしばしば処方権を持つ医師が同席し、長期的な健康状態やヘルスケアを管理することも目的に入っているようです。
このSMAs、実臨床ではどのくらい前から行われているのでしょうか。
Googleの検索窓に「Shared Medical Appointments」と打ち込んでみると、一番最初に出てくるのがこのオハイオ州にある学術医療センター、「クリーブランド・クリニック」です。
この施設では実際に10年以上前からSMAsを取り入れており、毎回10〜15人の患者さんが集まって、医療専門職に従事するメンターとの面談を行っています。
このようにSMAsを取り入れる医療機関は複数あり、各々での事例からノウハウを抽出して方法論についてまとめた論文なども出ています。
ここでは、執筆の時点で有用と判断された71報の論文(事例)を参考に、SMAsのコンセプトモデルを図にして提案しています。これによると、「社会的・行動学的・生理学的背景」「SMAsの機能」「治療のアウトカム」の3大要素からそれぞれのSMAsの事例を読み解くことができるとしています。
SMAsにはどんなメリットがあるの?
SMAsを治療に取り入れることでどのようなメリットが得られるのでしょうか。
前述の論文(C Health Serv Res. 2017 Feb 4;17(1):113)で著者らは、SMAsが主に「孤独感を減らし、より集中して治療に取り組むことができる機能」「他者の事例を直接みることで客観的に治療の様子をみることができる機能」「患者のニーズを医療従事者がより掴みやすい」といった9つの機能を持つ、と結論づけています。
またこれらの機能による「治療のアウトカム」として、「1対1の診察より良い結果がSMAsにより得られる可能性を見出した」と述べています。
それでは、本当にSMAsにより治療のエンドポイント(効果があったかをはかるための指標)が改善するのでしょうか?
SMAsで成功した具体例があったほうが、方法も含めてイメージしやすいかも。。
SMAsを導入した治療のケース
ということで、SMAsを導入したケースを探してみたところ、以下のような知見をみつけることができました。
糖尿病
長期にわたる治療が必要な疾患においては、診察時の処置のみならず、患者による日々の生活を通じた継続的な努力は避けて通れないでしょう。
なかでも糖尿病は日本のみならずアメリカでも対処すべき大きな社会的課題であり、今回調べたなかでもこの病気を対象としたデータが数多く出てきました。
2014年には、SMAsにより通常の治療と比較して有意に血圧やグリコヘモグロビン(HbA1c)値の改善がみられた、とのメタアナリシスレビューが報告されています。
多発性硬化症(Multiple Sclerosis、MS)
難病に指定されるような疾患についても、SMAsは有効であるように感じます。
Shared medical appointments educate and encourage MS patients.
患者さんにおいて、健康な人々が理解しにくいような悩みや苦しみを理解しあえることは大きな心の支えになります。珍しい病気であり、原因が不明ですぐに治る病気ではない難病であれば、なおさら理解しあえる人々がいる意義は大きいと思います。
集中治療室(ICU)後のケア
少し違う視点として、普段我々がイメージしにくい特殊な治療下の患者さんに対するSMAsの活用についても報告を見つけることができました。
以下のツイートで紹介された学会発表によると、ICUから回復した患者について、その後のケアにおける注意事項などをSMAsで共有できる旨が報告されています。
保険が適用できるかどうかっていうのは、アメリカならではの疑問点だね!
SMAsの現状:糖尿病での例から更なる体系化に向けた取り組みを知る
上記のように、いろいろな状況において継続的な治療に取り入れられているSMAs。現在ではその概念もある程度浸透してきたことから、さらにその仕組みをブラッシュアップするための研究が進められつつあるようです。
以下の論文では、「これまで行われてきた医療従事者により標準化されたSMAsよりも、患者が主体的に取り組むSMAsの方が良い結果が出るのでは?」という仮説を立て、比較検討を行う試験についてのプロトコルと実施予定が示されています。
ここでは患者が主体的に取り組むSMAsの条件として、「患者が参加したいテーマを選択する」「SMAs全体を指導するメンターと各セッションの専門家としてのメンターを分ける」といった定義づけをしております。
確かに、患者さんが自分で「この集まりに参加したい!」というものを選んだほうが、より治療の効果も上がりそうですね。
2020年12月までに患者さんのリクルートが完了する予定とのことで、今後の実施および結果が期待されるところです。
SMAsの普及に向けて役立ちそうなアイデアを考えてみる
さて、日本ではまだまだ認知度が低いと思われるこのSMAs。
かかりつけ医療や地域医療にも取り入れられそうな面白い概念だと思いますので、より普及するために役立てられそうなアイデアを考えてみることにしました。
参加しやすいリラックスした雰囲気を作る
SMAsでは時間ごとのテーマもさることながら、その集まりに参加することそのものにも大きな価値があります。したがって、参加するだけで元気になるような心地よい場であることが重要と考えられます。
例えば、可愛い動物たちと触れ合えたり、最新の癒しグッズを体験できるような機会となれば、それを目的に参加してみようかなという方もいらっしゃるかもしれません。
あるいは美味しいコーヒーや紅茶を味わうことのできるカフェで実施するのも良さそうです。個人的には、いろんなお店のコーヒー豆やお菓子をいただけたりしたら嬉しいですね。あと、素敵な器があったりするとちょっぴり楽しみをもって参加できそうです。
(参考)認知症カフェ:現状を踏まえ、今後求められる機能とは??
いろんな作業療法を提供する場として活用する
器ということでいえば、もはや自分でコップを作れるワークショップなども良さそうです。
今では古典的な認知行動療法にとどまらず、陶芸療法や園芸療法といった様々な形式の作業療法が確立されつつあることから、患者さんがよりいろいろな治療法を体験できるきっかけになるのではないでしょうか。
セルフメディケーションの推進にも活用する
今のところ主に処方決定に用いられているSMAsですが、シズク的にこの方法論は国内で注目が高まるセルフメディケーションを推進するうえでもかなり活用できる気がします。
*セルフメディケーションとは、患者自身で対処可能な病気であればOTC薬などで治療する概念のことです。「保険医療を主とした医療費の負担が大きいことから、保険料の要素がない一般用医薬品といった治療を活用したり、病気にならないよう健康増進を啓発しよう」というのが目的です。
やはり一般市民にとって、どのようなことが自身の健康に役立つかを自分ひとりで見極めるのは難しいのではないかと存じます。
病気とまではいかないものの自分と同じような健康の悩みをもつ複数の人々や、いろんな分野の医療従事者が一緒に対話しあえる場は、セルフメディケーションへ主体的に取り組むなかで良い相談所になるのではないかと考えます。
その際は、既に病気を抱えた患者さんが主な対象となる病院のみならず、介護施設や薬局といった他の医療施設もどんどん活用して、いつでもどこでもいろんな悩みを相談できる仕組みができていって欲しいと思います。
さいごに
世界保健機関(WHO)も、SMAsの在り方について気になっているようですね。
コロナ禍での流れを受けてSMAsのオンライン化が進めば、ますます参加しやすくなっていろいろ進化しそうですね!
今後どのような形式へと発展していくのか、日本においてもこのやり方がマッチするかなど、SMAsに関する国内外での今後の動向が楽しみです。
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